第3章 規範
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映画のチケットを買う列に割り込みされる
その瞬間、アドレナリンが駆け巡る
注意するか放っておくか
一つの見方では、割り込み集団の行動は自分の生活に実質的な影響は与えない
加えて、その知らない人々には二度と会わない
相手が暴力に訴えてくる可能性
リスクを冒すのは割に合わない
別の見方をすれば、割り込みは「ずるい」
このジレンマとそれに伴う強い生理反応は人間に共通する行動ツールキットであり、それは狩猟採集民だった祖先から引き継がれている
祖先にとって有用だったものは今も、街頭の見知らぬ人ではなくむしろよく知っている人に対して特に、概ね役に立つ
セコイアは抑制の効かない相互競争によって身動きがとれなくなっている 自然選択において、セコイアが「種のために」成長を抑える方法はない けれども人間は異なる
しかしながら、たまに割り込む人がいるのを見ればわかるが、不正を働きたい気持ちは常にあり、秩序を保つことは必ずしも容易ではない
社会学者と人類学者には、列に並ぶというような慣行は「規範」、すなわちコミュニティのメンバーがとるべき行動の規則や基準として知られている 規範を避けたり破ったりしたいという欲望は、わたしたちが自分自身に対して本当の意図を欺く主な理由の一つ
人間の集団が規範を作るのは、それが集団内の大多数にとって有益だから
いくつかの規範、とりわけトップダウン式の法律は圧制や収奪という形で、その執行が社会にとってまったく不利益になる場合もある
しかしほとんどの規範、とりわけ様々なボトムアップの草の根式のものは役に立つ
それらは競争を抑制して協力を促すためのひとつの主要な方法
レインガはマオリ族の村の一員だったが、ニュージーランドの沿岸部をぶらぶらしながら、地元の漁師達に釣れた魚の一番良い部分をせびって歩く「悪名高い大食漢」だった マオリの文化では食べ物を直接請われたときに断るのは失礼にあたるため、漁師たちはしぶしぶ承知していたが、次第に不満を募らせていった
それでもレインガが食べ物をせびり続けるうちに、漁師たちの怒りは収まらなくなり、とうとう「ある日、人々はもう限界だと、彼を殺した」
レインガはただ飯食いをするなという重要な規範に逆らったために、最後にひどい目にあった
もう一つ明らかなのはレインガを死に至らせた漁師たちが、食べ物は分け合わなければならないというまた別の規範にあまりにも忠実だったために、殺意を抱くほどまでそれに従ったこと
「レインガの求めに対して単純にノーと言えなかったのか?」
同じ用に自分に問うべきだろう「列に割り込んだ人を放っておけないのか?」
罰を与えるぞという一種の脅しは必ずそこに存在しなければならない
そうでなければ「規範」が口先だけのものになってしまう
毛沢東やスティーヴ・ジョブズの周辺に見られるように、人々が特定の人物に深くのめり込んでいる場合は、そのリーダーを批判した時に眉をひそめられることが多く、たとえ「指導者の批判」が公式に禁じられていなくても、リーダーその人ではなくそれ以外の人から罰を受けることがある
したがって、規範の本質は、わたしたちがそれを説明する言葉ではなく、どのような行動が罰を受けるのか、また罰はどのような形をとるのかという点にある
狩猟採集民の祖先
人間は真の規範を作った地球上で最初の動物である
そして現在は、複雑な法制度によって執行されている厳格な法律を含む、じつに様々な規範が存在する世界に暮らしている
けれども人間の世界はずっと昔の単純な世界に生まれ育ったものであり、今なおその初期の多くの特徴を備えている
そのことから、人間という種の幼少期のしつけを知ることが役に立つ
狩猟と採集は、紀元前1万年頃に農業革命が起こるまで、私たちの祖先が採用していた生活様式 ただこれから描こうとしている狩猟採集生活は実際には現代の狩猟採集民のもの そのような集団はきわめて少なく、様々な形で近代化の影響を受けていることは疑いようもない
それでも、そうした生活様式に関するデータには十分な一貫性があり、考古学の証拠と理論にも十分に裏付けられているため、少なくとも、私たちの祖先の暮らし方の概略は描ける
狩猟採集民は20~50人の集団で放浪生活を贈っている
エネルギー源のほとんどは果実、ナッツ、野菜を採集して得ているが、多くの集団が釣り、ときには他の動物の獲物をあさる方法でカロリーを補っている
世の人が想像するような大型動物の狩りが主要なエネルギー源になることはめったんあい
狩猟採集民は生き延びるためにたがいに大きく依存している
短い期間を超えて集団から離れることは実質的には死の宣告
男性、女性、子どもに分かれて様々に仕事を分担しているが、それぞれの層内では労働の区別はわずかしかない
各集団は特定の場所に数週間から数ヶ月野営しながら(ベースキャンプ)、食べ物が不足したとき、あるいは季節的なチャンスをうまく活用するために、広大な地域を移動する
彼らが持っているのは自分で運べるものだけ
おもに社会的な交流目的で、ほんのわずかな近隣集団とゆるい結びつきがある
たいていの場合、なばわりがあるとは考えていない
ときには集団同士の対立があり、場合によっては死を招くことがあるが(通常は男性)、全面戦争はきわめてまれで、資源が豊富な場所にたくさんの人間がいるときにしか起こらない
いつもキャンプを移動するのか、他の集団とどのような関係を築くのかはすべて集団レベルの決定であり、だれもが自由に意見する公開の会議で話し合われる
結論は全員の一致で決定され、反対者は自由に集団を離れて良い
大抵の場合、男性は死ぬまで生まれ育った集団に残り、女性は大人になると別の集団へ移り住む
そのため、近隣集団のあいだに多くの血縁ができる
一般的には男性も女性も、たまに浮気をしながら何年か続けて決まった相手とのみ性的関係を持つが、生涯添い遂げることはない
典型的な性関係からはひとり、ないしは複数の子どもを作り、少なくとも最初の数年は父親が子どもを養い育てる手助けをする
ときには困窮することはあっても、狩猟採集民はたくさんの余暇を過ごす
実際、農耕民より多いだろう
語り、冗談を言い、遊び、歌い、踊り、芸術作品を作り、交流する
チンパンジーの生活様式とも、わたしたちの近代的なライフスタイルともまったく異なる、放浪狩猟採集民の生活様式に際立つ特徴は、桁外れの平等主義 集団の主要な政治参加者は、互いに同等、対等な関係にある
成人男性は必ず、文化によってはときどき成人女性も
狩猟採集民と比べると、チンパンジーも農耕民も、そして広い意味では産業社会も、はるかに階層的で、直接の支配力やかなりの度合いのあからさまな不平等を許容している
狩猟採集民の一団に指導者がいる場合でも、それは集団のメンバーから思い思いに尊敬されている人々
狩猟採集民の平等主義はおもに、ひとりあるいは一つのグループがそれ以外の人を支配して、その人達の人生をみじめなものにしてしまうのを防ぐためにある
そのため狩猟採集民は、誰かが優位に立とうとするときの初期の兆候に敏感
そこには家庭や親族以外の者を威圧していじめたり、自慢したり、貪欲に権力を求めたり、集団内の他のメンバーと徒党を組んだり、それ以外にも他者の行動をコントロールしようとしたりする行動が含まれる
狩猟採集民の祖先に共通していた規範の多くは、今も人間の性質の奥深くに刻み込まれている
けれども、それだけがわたしたちの規範ではない
人類がそれぞれの環境に適した規範を取り入れ、地球上の各地に広がることができたのは、ひとつには、それぞれ異なる規範を採用するというその社会能力があったがため
またこの「文化的柔軟性」によって、およそ1万年前、わたしたちの祖先は狩猟と採集から農耕と家畜へと大きな行動の変化を起こすことができた
農耕民には結婚、戦争、所有物はもちろん、動物や階級の低い人、そして奴隷のひどい扱いを支持する規範がある
そしてその新しい規範を守らせるために、農耕民は社会的同調に関する強い規範はもちろん、道徳の教えを説く神々を伴った強い宗教を持っている
なぜ規範なのか
わたしたちの祖先の執拗な平等主義は、ほぼ間違いなく世界で最初の真の規範だろう
一方、コミュニケーションの問題の前に、そしてその根底には、それよりももっと本質的な問題がある
社会集団において、もっとも影響力のあるメンバーをも含むすべての人々を、いかにして規範にしたがわせるかということ
規範を守るときに人間がとっている行動と、似たような状況で動物がとっている行動の違いを知ることは重要
動物が戦いを挑まないと決断するときは、殆どの場合、たんに負傷するリスクを恐れているだけで「暴力は規範に反する」などという抽象的なことを考えているのではない
同様に、動物が家族以外と食べ物を分け合うときは、概してその後の見返りを求めているのであって、「食べ物を分け合う規範」を守っているのではない
真の規範を取り巻く動機づけはさらに複雑
私たちが「過ち」を犯すときは、対象となる相手からだけでなく第三者からの報復もおそれなければならない
2頭の喧嘩を3頭目が仲直りをさせようと介入することは珍しくない
この行動はほかの霊長類種でも観察されている
それはしばしば、属している集団全体、あるいは少なくともその大部分を意味する
「集団での執行」が規範の本質
狩猟採集生活様式における平等主義的な政治の秩序が際立っているのはそのため
相手に殴り返されるのをおそれるがゆえに相手を殴らないのは規範ではない
政府そのものからの報復をおそれて危険な政府に対して意見を述べないのは規範ではない
けれども、近所の人が嫌な顔をする、ましてや団結して自分を罰することが心配なら、それは規範に直面していると考えてよい
この第三者による集団での執行こそが人間に特有なものである
つまり人間では、最強のサルが集団を支配するのではなく、それ以外の集団が力を合わせることによって最強のサルを支配し、かつ効果的に牽制できるのだ
ビンガムとボームはいずれも、人間の、人間にしかない、そうした行動を可能にする鍵は、殺傷能力のある武器の使用だと述べている
遠い祖先に何が起きたのかについての理論がやや憶測に偏りがちになるのはしかたがない
けれども何が起きたにしても、そしてどのような順序だったにしても、ひとつの種としてたどり着いたところは明確だ
人間は、集団全体で守るべきルールを決定するために言語を使用する社会的動物であり、最強の個人に対してさえ、そうしたルールを守らせるために集団による罰という脅しを用いる
集団によって多くのルールは異なるが、たとえばレイプや殺人を禁じるなど、すべての人類文化に共通するものもいくつかある(Brown, 1991) しかしながら、たとえ集団で罰する力と武器を用いても、規範を守らせることはいたって難しい
この重要な事実はしばしば現代の制度によって見えにくくなっている
警察、裁判所、刑務所などはきわめてスムーズに機能しているけれども、それは何千年もの文化的進化の結果としてそうなっているだけ
だが、遠い祖先や強力な監視と統治のない環境にいる現代の人々にとっては、規範の執行は一筋縄では行かない
人間の社会生活のほとんどはむしろその範疇に入る
つまり列に割り込まないようにさせるといった類の行動
そのため、人間には少なくともあと二つ、規範遵守の行動を促すためのとっておきの策がある
陰口と評判
陰口と評判
悪意を感じさせ苦痛を与える場合も多々あるが、陰口は一方で悪い行動、とりわけ権力を持つ人々の悪行を抑制する重要なプロセスである
ケヴィンは前の職場で、図らずも弱い者いじめをする人を雇ってしまったときに、陰口の利点を体験した
そうした状況によくあるように、みなすぐにはそのミスには気づかなかった
なぜならそのいじめの加害者の悪い行動は徐々に発達していったもので、その人物が社内で権力を握るにつれて拡大していったから
けれども、彼がならず者だとはっきりわかったころには、あえて刃向かう人はいなくなっていた
解決策は陰口だった
職場のチームメイトは最終的に、そのいじめの加害者は辞めるべきだという全員一致の結論に達し、そうなるように全員が連携して手を打った
そうした会話はやがてその人物の辞職につながった
しかし、予想よりも長い時間がかかり、期待通りの結果を生む保障もなかった
多くの例で、だれかを追い出すために連携して行われる方法が陰口
しかしながら、陰口は、たとえ結果として公式な制裁につながらなくても、対象になる人物の評判に大きな傷をつけることができるという点で重要であり、役にも立つ その評判を傷つける脅威こそが、悪い行動の強い抑止力になる
直接の罰を与えることが難しすぎる、あるいは犠牲があまりに大きい場合にはなおさら
確かに、誰かの評判を傷つける力があるがゆえに、陰口はしばしば悪意を持って用いられる
けれども、規範を守らせるという点から見れば、それは重要な抑止メカニズムの悪用あるいは誤用である
規範の違反者に立ち向かうことにはリスクがある
違反者が権力者である場合はなおさら
しかし、そこに評判を投げ込めば、突如として有利になる
不正行為者を追い出す手助けをすれば、その人のリーダーシップが賞賛されるはずだ
個人行動の監視と不正行為者を罰する取り組みの両方で、だれもがほかのだれもを見張って評価しているとき、規範とその執行はきわめて重要な戦略となる
コラム3 武器
武器が形勢を一変させるものである理由はふたつある
最古の武器はおそらく尖った石あるいは重い石にすぎなかっただろうが、それでも標的を殺したり深手を負わせたりするには十分だっただろう
そのような武器がなければ、強者は弱者からの報復をあまり気にせず支配できる
たとえ弱いチンパンジーが強いチンパンジーの寝込みを襲って驚かせたとしても、一度や二度パンチして咬み付いたくらいでは勝ち目はない
けれども武器があれば、最初の一発を食らわせるだけで決定的に自分が有利になる可能性がある
武器が力の均衡を変えるもうひとつの例は、石や槍などの投擲武器の場合
遠距離武器がなければ、すべての暴力は至近距離での取っ組み合いになる
くわえて、攻撃の標的が集団内で最強であるなら、3対1の乱闘でもなお攻撃者が負傷する大きなリスクがある
けれども遠距離武器があれば、渡島を組んで横暴な最優位の人間に立ち向かえる
武器が登場するやいなや、物理的な強さはヒト科の動物が集団内で成功するかどうかを見極める重要な要因ではなくなった
むろん、依然として重要ではあるが、それだけがずば抜けて重要ではなくなった
なかでも、もっとも有益な連合を見つけ出し、参加し、可能であれば率いるという政治的な能力が決定的要因の座にのし上がった
もしボームやビンガムらが正しければ、わたしたちの種の政治行動の軌道が動いた変曲点は、殺傷武器の使い方を覚えたこと
ひとたびわたしたちの祖先がたがいに集団で殺したり罰したりする方法を学んでからは、もう後戻りはできなくなった
連合の規模はほぼ一晩で膨れ上がり、政治はものすごいスピードで複雑になり、舵をとるためにいっそうの知性が必要になった
そしてまもなく規範が増え始めた
コラム4 メタ規範
ケヴィンの体験だからよくわかるのは、罰を与えようとする人はみな、仕返しされるリスクに直面するため、規範を守らせることは難しいと思う点
つまり、やるだけの価値がないように見える
それでもなお、どういうわけか人間はさまざまな規範を守らせることに成功している
アクセルロッドの結論によれば、ほとんどの状況で、不正行為者を罰したくなるような動機づけは存在しない
しかしながら、モデルにひとつだけシンプルなあるものを加えると、モデルは善良な人に有利な方向に働く
他者を罰しない人を罰する規範
メタ規範は、集団のなかでは善良な市民に不正行為者を罰するよう仕向ける動機づけが必要だということを浮き彫りにしている
その動機づけがアメでもムチでもかまわない
アクセルロッドは、不正行為者に立ち向かわないこと自体が罰するに値する行動だと、それをムチの観点から語っている
しかしながら、集団によっては、不正行為者を罰する手助けをした人に報酬を与えるというアメの手法でもうまくいくかもしれない
多くの科学者が、不正をしたり罰を与えたりできる様々なゲームに人間の被験者を参加させる方法を用いて、アクセルロッドの結果を実験室内で再現している
また、実社会の多くのコミュニティがメタ規範のさまざまな形を採用している証拠も十分にある
たとえばアメリカでは、犯罪を目撃して通報しないのは法律違反
わかりにくいけれども重要な規範
人間は個人の行動を制限するためにありとあらゆる規範を作り上げてきた
殺人、レイプ、暴行、窃盗などを禁じる多くの規範は一目瞭然で、しっかりと執行されているため、本書には関係がない
ここで取り上げるのは、あまりにとらえにくいため、自分で行っていてもしばしば気づかないほど見つけるのが難しい違反
主として、それらは「意図」の罪
たまたまだれかの配偶者と仲が良いだけなら問題はないが、恋愛や性的な意図で仲良くしているのなら不適切である
行動ではなく意図を標的とすることで、規範はコミュニティ内で問題を引き起こしそうな行動パターンをより正確に規制することができる
しかしながら、一方で、意図を規制すると、さまざまな形の不正行為の扉が開く
意図を規制しているような弱い規範は、とりわけ自分がそれを破っているときに目につきにくい
なぜなら、わたしたちは盲点、すなわち脳のなかのゾウを作り上げているからだ
本書のテーマであるので、ここでいくつかを取り上げて検討する価値はあるだろう
規範にしたがわせる社会的圧力はたくさんあるけれども、見つかりさえしなければ思う存分規範を破って利益を得ることができると思い出すためにも
自慢
ほとんどの状況では、あまりにうぬぼれが強い人に会うと、わたしたちは次第にいらいらしてくる
自慢はコミュニティ内でその人の影響力と支配力を増加させる方法のひとつであるため、支配を嫌う狩猟採集民の名残としていらいらするのだ
けれども、それでも自慢したり見せびらかしたりしたいという強い衝動が残っていることに注意したい
わたしたちは他者に自分のすぐれた資質、技能、成功に気づいてもらわなければならない
けれども自慢すると顔をしかめられるので、若干さりげなく示さなければならない
ごますり
社会的地位の高い人がだれかを配偶者、友人、あるいはチームメイトに選ぶとき、その結びつきが一種の裏書きになって、選ばれた人の地位が上がる
それが社会的地位の高い人に気に入られたいという動機づけになる
しかしながら、その方法には好ましいものと好ましくないものがある
たとえば「ありのままの自分」であることは完璧に好ましい
好ましくない方法とはへつらうことだ
また関係を「買う」ことも好ましくない
そうした手段には難色が示されるか、そうでなければ規則違反だとみなされる
なぜなら、ひとつにはそれ以外の人の結びつきのシグナルが台無しになってしまうからである
小集団内の政治
自慢やごますりを防ぐ規範と同じように、小集団内の政治を防ぐ規範も日常的に破られている
政治に対するタブーは一般的に小規模集団の方が強い
例えば殆どの職場では、あからさまに「政治的」であることはよくない、あるいは集団にとって危険とさえ考えられている
派閥争いは集団を分裂させるおそれがあり、少なくとも能力を十分に引き出すことが困難になる
当然、自慢と同じように、個人が政治的な行動をとることには利点がある
だからこそ規範がある
それはまた、日常的に、特にこっそりと、規範が破られていることも意味する
自分勝手な動機
おそらく全体の規範のなかでもっとも広範囲にわたっているものは、自分勝手な動機に対する規範ではないだろうか
わたしたちは意図的にそれを避け、その代わりにもっと高尚で純潔な動機を強調することを好む
おさらい
第二章ではすべての動物と同じ用に、人間がいかに競争的で自分勝手であるかについて論じ、競争が大きな脳の進化にとって重要な推進力だったと述べた
本章では、すべての動物とは異なり、人間がいかに規範を用いることで種内部の無駄な競争を抑える方法を学んだかについて論じた
このふたつの特徴の間にある綱引き
規範によって競争が制限されると、賢い競争者になる動機づけが弱くなってしまう
規範の遵守が徹底されていたなら、人間の脳は縮んだはずだ
私たちの脳は拡大した
それは規範があったにもかかわらず、ではなく、規範があったからこそだった